Project
プロジェクトストーリー / ヘルスケア
誰かに必要とされる限り続く挑戦。
3人の社員が挑んだ“ふるえる体温計”の再生物語
「振動体温計」開発ストーリー
高齢者や耳が聞こえづらい人、筋肉の弱りや瘦せ型などで体温計をわきに挟むのが難しい人でも、安心して測れるように——。
測定完了を音だけでなく振動でも知らせ、わきに挟みやすい構造を備えた「振動体温計」。一度は2013年に販売終了となった初期モデルを改良して再び世に届けようと、2018年に新たなプロジェクトが立ち上がった。のちにシチズン・システムズの主力製品となるこの体温計は、どのようにして開発されたのか。そこには、3人の技術系社員の想いと、幾度もの試行錯誤があった。
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Profile :I.K.機械設計(ヘルスケア)
1993年入社 -
Profile :T.Y.回路設計(ヘルスケア)
1993年入社 -
Profile :S.S.ソフトウェア設計(ヘルスケア)
2014年入社
〈 背 景 〉
再販を求める声から生まれた振動体温計の復活プロジェクト
2018年、ヘルスケア事業部では、廃盤となっていた体温計の改良・再販売に向けたプロジェクトが始動した。シチズン・システムズはこれより以前、2004年に高齢で耳が遠くなった人や高音が聞き取りづらくなった人など、音による測定完了の報知がわかりづらい人のために、振動で測定完了を知らせる「振動体温計」を発売していた。しかし、市場での認知が十分に広がらず販売数は伸び悩み、2013年に販売終了となった。それでも一部のユーザーから再販を望む声が寄せられ、その想いに応える形で、新たな振動体温計の開発が始まった。開発に携わったのはI.K.とT.Y.とS.S.の3人。I.K.はプロジェクトリーダーおよび機械設計担当として、T.Y.は回路設計担当として、S.S.はソフトウェア設計担当として、このプロジェクトに参画した。
“一人でも必要としている人がいるならつくる”というシチズン・システムズの想いから、過去の製品を改めて見直し、再び世に届けようという話が出ました。前回のモデルがなぜ受け入れられなかったのか、どうすれば誰もが使いやすい体温計になるのかを考え続け、何度も検証を重ねました。
機能性だけでなく、健康機器として安全性や信頼性も欠かせません。それらを支える振動モーターやセンサー、マイコンなどの電子部品の選定と、最適な回路設計を意識して取り組みました。
振動モーターの選定では、人が振動を感知する細胞についても調査し、より伝わりやすい周波数を模索しました。また、今回がソフトウェア設計として初めて担当する製品だったため、既存モデルの理解から新機能開発まで、I.K.さんとT.Y.さんのサポートを受けながら懸命に取り組みました。
〈 開 発 〉
幾重もの壁を越えて、人々に寄り添う形へ
3人は、振動機能の改良に加え、さまざまなユーザーにとって使いやすい設計を追求した。わきに挟んだ状態でもブザー音が聞こえやすい構造、痩せ型の人や筋力が低下した人でも安定して測定できるゴム製アタッチメント、暗い場所でも見やすいバックライトなど、多様なニーズを想定した改良を進めた。しかし、これらの機能すべてを備えた体温計は前例がなく、開発には数多くの壁が立ちはだかった。
振動報知機能を搭載した体温計の回路設計において、振動モーターの動作と電力消費のバランスを取ることが最大の課題でした。振動が強すぎると電力を消耗して使用可能回数が減り、弱すぎると振動を感じにくくなる。その中間点を探るのに苦労しました。
バッグライトも電力を消費するため、点灯時間を調整する必要がありました。また、振動モーターや電池を搭載することで本体が重くなり、わきに挟みにくくなる問題も発生しました。
それらの影響で体温計を構成する条件の設定がうまくいかず、当初予定していた販売スケジュールから約2カ月遅れる事態となってしまいました。
それでも3人は諦めず、一つひとつの課題を解決していった。何度も試作と検証を繰り返し、ついに最適な構造を見つけ出した。
何回も振動モーターの動作と電力消費のバランスを模索していく中で、振動の強さと使用可能回数の両立を実現することができました。また、スイッチや電池をわきに近い位置へ配置することで、重さの課題も解消しました。
さらに、先端を膨らませたゴム製のアタッチメントを取りつけることで、わきを締めても空間が空いてしまう人や挟む力が弱い人でも、ずれ落ちないように工夫しました。
振動パターンをあえて変化させることで、慣れによる感知の鈍化を防ぎました。ブザー音も複数の周波数で報知するようにし、高音が聞こえづらい高齢者も測定完了が気づきやすい設計にしました。
幾度もの試行錯誤を経て、2019年、新しい「振動体温計 CTEB720VA」が完成した。
〈 結 果 〉
ひとの役に立つとともに、会社の発展も支える
完成した製品は市場で高い評価を受け、高齢者や障がいを抱える人を中心に多くの支持を集めた。
販売開始から約3年後、聴覚障がいを持つお子様のお母様から手紙をいただきました。お子様が体温測定の終了を初めて自分で理解できたという喜びと感謝の言葉をもらいました。実際にお子様の手書きで「ありがとう」という文字を見た時、お客様の役に立つ製品をつくることができて本当に良かったと感じました。
また、大学病院の方が本製品を用いて、高齢者の方には振動報知が有用であるという論文を発表されました。学術的な観点からも、振動体温計の有用さを知ってもらえたことに対し、シチズンの名を広める製品開発ができたと感じて誇らしく思いました。
私も本製品を家族にプレゼントしたところ、「もう振動機能がない体温計には戻れない」と言われ、自分が新しいスタンダードをつくることができたようで非常に感慨深かったです。
本プロジェクトをきっかけに、シチズンの健康機器製品は、医療関係者や高齢者、聴覚障がいを持つ方をはじめ、幅広い人に認知されるようになった。売上や市場シェアの拡大に加え、グッドデザイン賞の受賞など、ブランド価値向上や競争力強化につながった。一度は廃盤となった製品が、必要とする人を想う気持ちによって、シチズンを代表する製品へと成長したのである。
〈 今後の展望 〉
誰かのために寄り添った製品づくりを
現在、振動体温計はシチズンのヘルスケア事業の主力製品に。開発の起点となった「誰かのために寄り添った製品づくり」という想いは、測定する本人や測定をしてあげる人も装着が楽な血圧計、カフホースが絡みにくい「クルッとカフ」などさまざまな製品に活かされている。
これからもお客様の声を大切にして、困っている人の助けになる製品をつくり続けたいです。健康機器は息の長い製品が多く、20年以上販売を続けているモデルもあります。そんな“人々に長く愛される製品”を開発していきたいです。
体温計や血圧計を中心に、誰もが簡単に、そして正確に健康管理できる仕組みを構築していきたいと考えています。また、高齢者や障がいを抱える方を含め、幅広いユーザーが使いやすい、操作性や見やすさを追求した製品の開発に取り組んでいきたいです。特に、目や耳に障がいを持つ方々に配慮した設計をさらに進めていきたいです。
小さな口コミや感想、誰かの困りごとを解決できる製品、それでいてシチズンらしいデザイン性も大切にした製品を世の中に届けていきたいと思っています。
一つひとつの困りごとに耳を澄ませ、誰かの「あったらいいな」「こうだったらいいのに」を技術で形にしていく。その積み重ねこそが、シチズン・システムズのものづくりの原点であり、未来を切り開く力でもある。ひとへの想いが技術となり、その技術が再びひとを支える。その信念を胸にシチズン・システムズはこれからもひとに寄り添う製品をつくり続ける。